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「しゃらん。しゃらん。
 いったいいくつの鈴を鳴らせばこれだけの音がでるのだろう。幾重にも重なるような音が、三橋たちを取り巻いていく。
「なにが起きてんだ……これ」
 さすがの田島も常識外れの現象を前にして、いくぶん声が上ずっているようだ。
 しゃらん。しゃらん。
 音とともに近づく鬼火に、三橋はハッとした。

――― この音、オレ聞いたことある!

「田島、くん! オレ、この音知ってる! 夕方オレが聞いた鈴の音、これだっ!」
「三橋、それマジか!?」
「うんっ! 間違いない。あの、お社のとこで聞いた音、だ!」
『そのとおりでございます』
 ぎょっとした三橋たちの目の前で、ひときわ大きく膨れ上がった鬼火が人の形をとる。青白い炎の中から現れたのは、二人の少女だった。
 恐怖に言葉を失った4人の前で、二人の少女は優雅に頭を下げた。肩口で切りそろえられた黒髪がさらりと揺れる。年齢は十歳くらいだろうか、白衣と緋袴というに古式ゆかしい巫女装束に身を包んだ少女の顔の半分は、白い狐の面で覆われていた。紅を塗ったかのような二つの赤い口唇から、まったく同じ鈴の音のような声が紡がれる。
『どうぞこのように突然の来訪とあいなりました非礼をお許しください。このたびは、我らが命を救っていただきました皆々様へ御礼を申し上げるために参上いたしました』
「お礼だって?」
『さようにございます。夕刻での一件、どのように御礼の言葉をつくしてもまだ足りませぬ。我らが主も、こたびのことに深く感銘を受け、ぜひとも皆々様を宴の席へと招待したいと申しております』
 どうぞこちらへと促す声に、いち早く泉がまったをかけた。
「ちょっと待て。オレ達はまだ行くとは言ってない。だいたいおまえ達は誰なんだ」
 少なくとも幽霊だかなんだかよくわからないものに、知り合いなどいないし、そいつらの命を救った記憶もない。警戒の色を強く滲ませる泉に、少女達もう一度深々と頭を下げ非礼を詫びた。
『これは失礼いたしました。皆々様が不審に思うのもごもっともでございます。我らはこの地に根付いたおやしろさまに仕える稲荷の白狐』
「我が名は左近」
「そして我が名を右近と申します」
 しゃらん。『どうぞお見知りおきを』と歌うような名乗りにあわせるように、手首に巻きつけていた銀の鈴が涼やかな音をたてる。双子のようにそっくりのいでたちの少女のうち、右近と名乗った少女が一歩前へと進み出る。
「こちらを覚えていらっしゃいますでしょうか」
 のけぞるように晒した白い首には、見覚えのある青い布が巻き付けられていた。
        




2010.7.29

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